ワイヤークラフトの歴史


古代〜中世


古代エジプト文明の遺物の中には線細工の微細な技法で作られた宝飾品があります。
『フィリグリー』というこの技術は、糸のように細くした金や銀をコイルに巻きあげて模様をつくり、それらを溶接して作り上げるもので、あたかも実際に糸を編んだレースのように見えます。
エジプト第12王朝に始まったいわれる細線細工の技術は、その後、世界各地に伝播しました。同様の技術はギリシア、エトルリア、インド、、古代インカ、中国、朝鮮にも見られますが、わが国の古墳からも耳飾が出土しています。
その後、古代ヨーロッパやアジアなど世界各地に伝えられて、中世には盛んに作られました。

しかし今日、フィリグリーと呼ばれるものについては、ほとんどがプレス・パンチングによって大量生産された透かし模様のパーツであって、またフィリグリーという言葉は、それが本来生みだしていた文様自体を指しても使われています。ですから、技術が伝承されているごくまれな場合でなければ、本来のフィリグリーを見かけることはないようです。
こちらのページを参考にさせていただきました。

また、16世紀にローマカトリックの修道院において始まったといわれる『クロスターアルバイテン』という伝統工芸もあります。
細い金銀などのワイヤーにビーズを通したり編み込んだりして製作するもので、初めは聖遺物の装飾に使われていたようですが、巡礼の記念用として持ち運べるようなものも作られるようになりました。
こちらのページを参考にさせていただきました。


近世


西洋の銀線細工の技術はオランダやポルトガルとの南蛮貿易を通じて、日本にも伝えられたようです。
鎖国中の日本で唯一、貿易が行われて長崎には、当時、銀細工職人の住む町があったそうですが、現在、それは残っておりません。

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その後、銀線細工は秋田に伝えられ、今日では秋田の有名な工芸品のひとつとなっています。
こちらのページを参考にさせていただきました。

現在、ワイヤーワークと呼ばれているものの始まりは、18世紀にチェコで、調理器具を作っていた職人が、針金を用いて鍋敷きや調理用のラックなどの小物を作ったものというのが定説のようですが、その後、家内制手工業的に行われていたこのような実用的な小物の生産は産業革命後の大量生産の時代になると衰退していきました。

その後、ワイヤークラフトは彫金の一技法として宝飾品製作などの分野に存在しました。


近代・現代


昭和の戦前・戦後あたり、縁日などでの露店で、針金細工の知恵の輪やゴム鉄砲、三輪車などを客の前で作りながら販売する職人さんが存在したようです。現在でも僅かですが、その流れを汲む方がおられるようなので、どこかで見かけられているかもしれません。


(写真は私が復刻したものです)

アートとしてのワイヤークラフトにアプローチした作家として特筆すべきなのはアメリカのアレクサンダー・カルダー(Alexander Calder 1898-1976)です。
彼は、人物や動物を簡略化して描いた針金彫刻(wire sculpture)を製作し、また、それを操って即興的に上演するサーカスのパフォーマンスがパリの芸術家たちの間で有名になり、マルセル・デュシャンやジャン・コクトーらとも交流をもつようになりました。
Calder Foundation

1960年代になると、文化・政治・ライフスタイルなど多くの分野にまたがる世界的な新しい潮流が起こります。 音楽におけるロックや反戦・反体制といった政治運動を含むこれらの動きの中には、新しい生き方を模索するヒッピーと呼ばれる人たちもいました。

かれらの中には既存の資本主義社会の中での生活形態から離れるため、コミューンを作って自給自足を試みる人たちもいましたが、同様に自分たちの手作りの品をストリートなどで販売し、生活の資を得ることもありました。

時には、そういったものを売りながら世界的な規模で旅をしたりしたのです。
かれらの商品の中にはワイヤークラフトのアクセサリーや小物もありました。コイル状に巻いたワイヤーを開いたものを組み合わせ、ペンダントにしたものとか、ワイヤーを主としてネームのアルファベットの形に曲げたものなどです。かれらは旅先でそういった技術を教えあったり情報報交換したりして、ノウハウの伝播が広く行われました。

日本は高度成長期を経て豊かな時代を迎え、人々に経済的、時間的なゆとりが出てくると、特に若い女性や主婦たちの間で趣味を通じて日々の生活を楽しもうとする風潮が生まれてきます。
技術を身につけたり資格を取って、キャリアアップを目指す人も増えたため、各地にカルチャーセンターができて、その中にはワイヤークラフトの講座もあったりします。こういう場所では、やはり、アクセサリーや雑貨のような身近なアイテムを取り上げることが多いようです。
こうした裾野の広がりに材料や工具のメーカーも対応して、バラエティーのある関連商品が手に入るようになりました。
イベントに出展したり、作品を販売したりする人も多いようです。


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